コーヒーブレイク

~「きのこの山・たけのこの里」の苦悩~

 株式会社明治のチョコレート菓子「きのこの山」と「たけのこの里」。一度は耳にした事があるお菓子ではないでしょうか。「どっち派?」といった話もたまに聞きますね。数年前、この「きのこの山」と「たけのこの里」のお菓子の形状が、立体商標として商標登録されたとし、特許庁が「特例」としてSNSのX(旧Twitter)で呟いた事が、大きく話題となりました。 ※ 因みに、立体商標とは、商品などの立体的な形状を商標として登録し保護する制度です。

商標公報より引用

 では、なぜ、「きのこの山」と「たけのこの里」を特許庁が「特例」としてSNSで話題に取り上げたのでしょうか。「きのこの山」は2018年に、「たけのこの里」は2021年に登録がされましたが、食品そのものでは非常に珍しいケースだとされています。今回は、その登録に至った過程のお話です。

 当初、「本願商標の立体的形状は、「菓子」の機能又は美感を発揮させるための商品の一形態を表示するにすぎず、同種商品が一般的に採用し得る範囲内にとどまるものというのが相当」であり自他商品等識別力がないと特許庁に判断され、商標の登録が認められませんでした。

 一般的には、商品等の形状を普通に表示しただけの商標は、識別力がないとして商標法3条1項3号の規定により商標登録を受けることができません。しかし、商品等の形状であっても、その立体形状を見た消費者がそれを見ただけで、「●●会社の商品だ!」と認識できるだけの周知性があれば、自他商品等識別力があると判断されて、例外的に登録が認められることがあります(商標法3条2項)。

 株式会社明治はそれに反発、「自他商品等識別力」 を認めてもらうために、様々な証拠を提出しました。それは、「本願商標の使用開始時期・使用期間」、「売上高や販売数量」、「商品のシェア」、「広告宣伝の態様」、「商品の認知度のアンケート結果」など、数年に渡り何度も莫大なアンケート調査実施した内容でした。特に、 アンケート調査では、写真を見ただけで、選択肢のない状態で「たけのこの里」という商品名を言い当てた回答者は9割という驚異的なものでした。

 その手探りによる莫大な調査量の結果、「自他商品等識別力」があることが認められ、最初の商標登録出願から実に20年以上もの時を経て、やっと登録に至りました。

 株式会社明治の財と労力が多く詰まった「きのこの山」と「たけのこの里」の価値を噛みしめて食べてみるのもまた、味わい深く感じるかもしれません。