コトバの使い方よもやま話

 ~「優性遺伝・劣性遺伝」は誤解を与えるのか?~

 2017年に、日本遺伝学会は遺伝学用語集として「遺伝単」という書籍を刊行しました。この書籍にて注目を集めたのは、「優性・劣性」という用語を「顕性・潜性」という用語に変更する、という主張でした。「優性・劣性」という表現では、遺伝に優劣が存在しているとの誤解や偏見を与えてしまうため、これを回避すべく新たに提唱されたものです。
 その後、日本医学会にて、優性遺伝と劣性遺伝に代わる推奨用語について

● 推奨用語を「顕性遺伝」「潜性遺伝」とする
● 従来の表記は(優性遺伝)(劣性遺伝)として括弧書きで表記
  (「顕性遺伝(優性遺伝)」「潜性遺伝(劣性遺伝)」と遺伝形式として明記)
● 5年程度の期間を得た後は推奨用語に移行する
とする旨の決定を2022年1月に報告しています。

 また、中学理科は2021年度から、高校生物は2022年度から「顕性・潜性」を一斉に使用するようになったとのことです。
 現在では本書は改訂版となって刊行されている「遺伝単」では、2017年刊行の初版にて、他にも表記の変更について言及していました。例えば、”Color blindness”について、「色覚異常」ではなく「色覚多様性」と表記し、英語についても”Color vision variation”の使用を提唱する、といったものでした。おそらくこうした表記が広く採用され、定着するためには多くの人の遺伝学への理解が必要であり、時間がかかることと思います。ただ、この提言に込められた思いを考えるにつけ、その時がそう遠くない未来であると信じています。