お母さんは生物学者〜ママの読み聞かせ生き物千一夜物語~

【第20回】解析例2:『F-ExpCells』を使用した肺の小細胞がんに特徴的な遺伝子の解析

こんにちは!

第15回でご紹介した解析例1では、小細胞がんと非小細胞がんを区別する遺伝子があることがわかりました。けれども、発現データを小細胞がんの診断に利用したいと考えた場合、小細胞がんであると確実に診断するには、もう少し小細胞がんであるという証拠をそろえたいところです。そこで、『F-ExpCells』の肺がん細胞株の発現データから、小細胞がんだけで発現が多く、非小細胞がんでは発現が少ない遺伝子を探してみることにしました。

遺伝子探しでは、いくつかの条件を使って遺伝子を絞り込んでいきます。193個の肺がん細胞株の発現データの中から、小細胞がんと非小細胞がんの2つのグループで発現に差がある遺伝子を探しだし、さらにその中で発現の差がより大きい遺伝子を選びます。さらにその中から小細胞がんで発現がより多い遺伝子を選び、さらにその中から非小細胞がんで発現がより少ない遺伝子を選び…といくつかのステップを経て、14,400個の遺伝子の中から小細胞がんだけで発現が多い遺伝子を76個選びました。

この76個の遺伝子はほとんどの小細胞がんで発現が多いので、小細胞がんに特徴的な遺伝子といえます。ですが、カルチノイド腫瘍と一部の大細胞神経内分泌がんと腺がん、扁平上皮がん、タイプがわからない肺がんの中にも数個、小細胞がんに特徴的な遺伝子が多く発現しているものがありました。逆に、小細胞がんのうちの約10%は、小細胞がんに特徴的な遺伝子があまり発現していませんでした。解析例1でもそうでしたが、がんのタイプと遺伝子の発現が一致しない細胞株も、決して多くはないのですが、あったということです。

小細胞がんなのに小細胞がんに特徴的な遺伝子があまり発現していないものは、ひょっとしたら小細胞がんらしくないのかもしれません。非小細胞がんなのに小細胞がんに特徴的な遺伝子が多く発現しているものは、ひょっとしたら小細胞がんの性質をもっているのかもしれません。そんながんがあるならば、それぞれのがんの性質に合わせて治療戦略を慎重に考える必要があります。このような違いが見えることが、遺伝子発現解析の強みになるかもしれません。

次回は、小細胞がんに特徴的な遺伝子の発現をすべての器官で調べてみた結果についてお話します。

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