お母さんは生物学者〜ママの読み聞かせ生き物千一夜物語~

【第22回】解析例3:『F-ExpCells』を使用した肺がんのタイプ別に多く発現している遺伝子の解析

こんにちは! 研究員Yです。

解析例2では、肺の小細胞がんに特徴的な遺伝子を探し出しました。小細胞がんに特徴的な遺伝子が肺がんでたくさん発現していれば、高確率で小細胞がんであるといえるところまで解析を進めることができました。でも、もし発現データを肺がんのタイプの診断に利用したいと考えるならば、小細胞がん以外のタイプのがんに特徴的な遺伝子も知りたいところです。そこで、『F-ExpCells』の肺がん細胞株の発現データから、肺がんのタイプ別に多く発現している遺伝子を探してみることにしました。

その結果、①非小細胞がんで多く発現している遺伝子(83個)、②扁平上皮がんの約30%で多く発現している遺伝子(52個)、③巨細胞がんで多く発現している遺伝子(87個)を見つけることができました。

肺の扁平上皮がんの約30%で多く発現している遺伝子は、残りの扁平上皮がんではあまり発現していませんでした。もしかしたら、肺の扁平上皮がんの中にも性質が異なるタイプがあるのかもしれません。また、巨細胞がんで多く発現している遺伝子には、すべての巨細胞がんで多く発現する遺伝子と半分の巨細胞がんで多く発現する遺伝子がありました。発現パターンの違いから巨細胞がんにも2つのタイプがあると考えてもいいと思います。ちなみに、巨細胞がんは腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、神経内分泌腫瘍の4つの主要なグループには含まれない特殊ながんです。

残念ながら、腺がんだけで多く発現している遺伝子はうまく探し出すことができませんでした。腺がんで多く発現している遺伝子は、他のタイプのがんでも多く発現していたのです。また、大細胞神経内分泌がんとカルチノイド腫瘍でも、多く発現している遺伝子を探し出せませんでした。カルチノイド腫瘍は細胞株の数が3つと、サンプルの数が少なかったせいもあるかもしれません。

それでも、前回選び出した小細胞がんに特徴的な76個の遺伝子と、今回選び出した①~③の遺伝子を合わせた298個の遺伝子で、ある程度、肺がん細胞株のタイプを分けることができそうです。

次回は、今回の解析結果のうち、非小細胞がんで多く発現している遺伝子についてお話します。

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