お母さんは生物学者〜ママの読み聞かせ生き物千一夜物語~

【第9回】 どうしてがんになるの?~その1~

こんにちは!

前回、細胞が増える仕組みについてお話しました。正常な細胞であれば、増える必要がない時は細胞周期のG0期に入り、いったん細胞周期をはずれて分裂が止まります。ところが、がん細胞は分裂を止めることなく細胞周期をまわり続けます。がん細胞がそうなってしまったのは、細胞周期の制御がうまくいかなくなってしまったせいなのです。

では、どうして細胞周期の制御がうまくいかなくなってしまうのでしょうか?

その答えの1つはDNAが傷ついてしまうことがあるからです。細胞が分裂する時に塩基の相補性を利用してDNAが複製されますが、その時に偶然、間違ったヌクレオチドが結合してしまうことがあります。この複製時のエラーがDNAの傷となります。また、たばこや紫外線、ウイルス感染、活性酸素などの刺激でもDNAは傷つけられます。DNAの損傷は日常的に起きていて、1つの細胞内でおこるDNAの損傷は1日で最大50万回とも言われています。

DNAの損傷により塩基配列が変わってしまうことを「変異」といいます。大事な遺伝情報が書き換えられてしまうと大変なことになります。変異のある遺伝子からは異常なタンパク質が作られてしまい、それらは正常な働きをすることができないからです。そのため、人の体にはDNAの損傷を見つけて、それを修復する仕組みが備わっています。また、DNAの損傷があまりにもひどく、どうしても修復できないような場合には、その細胞を殺して体から排除するような仕組みもあります。細胞周期のG1期、G2期にDNAの損傷を確認し、修復しているのは、遺伝子に変異が残らないようにするためなのです。DNAの損傷が細胞内で1日に最大50万回も起こっているのに、人がほとんど病気にもならずに健康でいられるのは、DNAを修復する仕組みがあるおかげだといえます。 ところが、ごく稀にこれらの仕組みをのがれて、変異のある遺伝子が残ってしまうことがあります。変異は様々な遺伝子で起こりますが、もし細胞を増やす役割をもつ遺伝子や細胞の増殖を抑える役割をもつ遺伝子に変異が起きてしまったら…この続きは次回、お話します。

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