お母さんは生物学者〜ママの読み聞かせ生き物千一夜物語~

【第21回】小細胞がんに特徴的な遺伝子の発現をすべての器官で調べた結果

こんにちは!
前回、肺がん細胞株の発現データから小細胞がんに特徴的な遺伝子を76個選び出したお話をしました。さて、この小細胞がんに特徴的な遺伝子の発現は肺以外の器官ではどうなっているのでしょう?

この疑問を解決するため、『F-ExpCells』のすべての発現データで小細胞がんに特徴的な76個の遺伝子の発現がどうなっているのかを調べました。すると、小細胞がんに特徴的な遺伝子は「神経芽腫」の細胞株でも多く発現していることがわかりました。神経芽腫は神経細胞にできるがんです。実は小細胞がんは神経内分泌腫瘍というグループに含まれ、神経内分泌細胞から発生します。神経内分泌細胞はホルモンを分泌できる特殊な神経細胞ですから、小細胞がんに特徴的な遺伝子が、神経のがんである神経芽腫で多く発現していても不思議ではないような気がします。

実は私たちの研究室には『F-ExpCells』だけではなく、実際の人の組織の遺伝子発現データセットもあります。実際の人の組織というのは、検査の時や手術をした時にがんの患者さんから採取した本物の組織です。たくさんの患者さんにご協力いただき、10,520個の人の組織サンプルの発現データを集め『F-ExpTissues』として提供しています。そこで、実際の人の組織でも小細胞がんに特徴的な76個の遺伝子の発現を調べてみました。人の組織の発現データでは、肺の「小細胞がん」、「カルチノイド腫瘍」以外に、正常な脳、脳の「神経膠腫」・「膠芽腫」・「下垂体腺腫」、甲状腺の「髄様がん」、縦郭の「神経芽腫」、胸腺の「カルチノイド腫瘍」、膵臓の「神経内分泌腫瘍」、副腎の「褐色細胞腫」・「神経芽腫」といった様々な器官に発生したがんで、小細胞がんに特徴的な遺伝子が多く発現していることがわかりました。聞きなれない名前のがんがたくさんでてきましたが、これらの器官は神経系、内分泌系であることがわかります。小細胞がんに特徴的な遺伝子は肺の小細胞がんの証拠になるだけでなく、神経系、内分泌系と関連がある遺伝子といえそうです。小細胞がんは神経内分泌細胞から発生するがんなので、なるほどと納得できる結果です。

次回は、解析例3、肺がんのタイプ別に多く発現している遺伝子の解析についてお話します。

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