前回は、第2のものさしの前編として、腫瘍内に入り込んだT細胞がCD4系なのか、CD8系なのかという“系統”に注目しました。ただ、系統に関する情報だけでは、そのT細胞がどのような状態にあるのかまでは分かりません。
そこで今回は、T細胞たちがどのような状態にあるのかに目を向けます。
T細胞には、まだ活性化前の“新兵”のような細胞もいれば、長期間生き残る“記憶保持型”の細胞もいます。
後編となる今回は、腫瘍内のT細胞がどの程度リンパ節を行き来するような“待機・巡回型の状態”にあるのかを、遺伝子発現から探っていきます。
『F-ExpTissues』の図については、これまで同様、各遺伝子の発現をヒートマップとグラフで示します。サンプルカテゴリと原発組織の色分けは、以下の通りです。

■待機・巡回型の状態か: IL7RとCCR7
IL7R (CD127)とCCR7はT細胞がどのような状態にあるかを示す指標です。
・IL7R: T細胞の生存・維持に必要なシグナルのアンテナで、ナイーブT細胞(新兵)やメモリーT細胞(記憶保持型)で強く発現します。
・CCR7: T細胞がリンパ節にとどまる/リンパ節へ向かうために使われる分子で、ナイーブT細胞や中央メモリーT細胞の目印です。
つまり、IL7RとCCR7の発現が高い腫瘍では、“待機・巡回型のT細胞”が比較的多く存在していると読み解けます。

●IL7Rの発現パターン
IL7Rはリンパ節・胸腺・血液といった免疫の拠点で高く発現するほか、肺のように免疫細胞が常駐しやすい組織でも発現が見られました。また、比較的多くの悪性腫瘍でもIL7Rの発現が確認されました。
IL7RはナイーブT細胞やメモリーT細胞の維持に重要なサイトカインであるIL-7を受け取るための受容体です。一方で、腫瘍によっては、T細胞以外の細胞(腫瘍細胞や周囲の細胞)でもIL7Rの発現が報告されています。この点をふまえると、IL7Rの発現が比較的多くの腫瘍で見られる背景には、T細胞以外の細胞がIL7Rを発現している可能性も含まれていると考えられます。
●CCR7の発現パターン
CCR7の発現は、IL7Rよりも免疫拠点に偏っている傾向が見られました。CCR7はリンパ節へ移動し、そこに滞在するために働く分子なので、免疫拠点で発現が高くなるのはこの性質によるものと考えられます。
免疫拠点にはナイーブT細胞と中央メモリーT細胞の両方が存在しますが、一般的にはリンパ節にはナイーブT細胞が多く存在するため、免疫拠点で見られるCCR7の発現は、ナイーブT細胞によるものが多い可能性があります。
また、ナイーブT細胞は腫瘍組織にはほとんど入り込まないと考えられているため、免疫拠点以外の悪性腫瘍で見られるCCR7の発現は、中央メモリーT細胞に由来すると考えられます。
●IL7RとCCR7の発現から見えてきたこと
腫瘍に入り込んでいるT細胞の量は全体として多くない可能性が第1のものさしで示されましたが、IL7RやCCR7の発現を見ると、一部の腫瘍には待機・巡回型のT細胞が存在する可能性も見えてきました。