第1のものさしでは、腫瘍内にどれだけ免疫細胞がいるのか、特にT細胞の「量」に注目して見てきました。
今回は、第2のものさしである「部隊の構成」を見ていきます。
腫瘍内に入り込んだT細胞が司令塔タイプ(CD4系)なのか、実行部隊(CD8系)なのか。その内訳を知ることは、腫瘍内免疫を読み解くうえで重要な視点になります。そこで、今回は前編として、CD4・CD8A・CD8Bの発現から、腫瘍内にどのような系統のT細胞が集まっているのかを見ていきます。
『F-ExpTissues』の図については、これまで同様、各遺伝子の発現をヒートマップとグラフで示します。サンプルカテゴリと原発組織の色分けは、以下の通りです。

■ 司令塔か、実行部隊か: CD4とCD8
まず注目するのは、T細胞の役割を決める基本の系統です。
・CD4: ヘルパーT細胞を示す代表的な目印です。ヘルパーT細胞は免疫反応の「司令塔」として、他の免疫細胞の動きを整えます。
・CD8: キラーT細胞を示す目印です。キラーT細胞はがん細胞に直接作用し、細胞死へと導く「実行部隊」です。CD8にはCD8AとCD8Bがあります。
・CD8A: T細胞だけでなくNK細胞などでも発現します。そのため、“実行部隊の広い意味での量”を反映する指標といえます。
・CD8B: 主にT細胞で発現し、CD8 T細胞の存在をより反映しやすい指標です。
CD4とCD8のバランスを見ることで、その腫瘍における免疫の布陣を大まかに把握できます。

■ CD4とCD8の発現パターン
悪性腫瘍サンプル全体を見渡すと、CD4やCD8の発現が高いサンプルが多く見られました。
一方で、第1のものさし(第3回参照)で扱ったCD3群の発現から見る限り、「悪性腫瘍へのT細胞浸潤は必ずしも多くない」と示唆される結果が得られていて、この点は一見すると矛盾しているように感じます。
しかし、CD4はT細胞以外の免疫細胞でも弱く発現することがあり、CD8AもNK細胞などでも発現します。そのため、これらの発現には非T細胞由来のシグナルが含まれている可能性があり、このパターンはある程度説明可能です。
ただし、CD8Bについては少し様子が異なります。CD8Bは比較的T細胞への特異性が高い遺伝子であり、CD3群の結果から想像されるよりも、CD8Bの発現が高いサンプルが多いという傾向には、やや違和感があります。
■ なぜこのような傾向が見えたのか
この点を考える上で重要になるのが、マイクロアレイの特性です。
マイクロアレイの発現値は、遺伝子の絶対量ではなく、サンプルとレファレンスの「比」によって決まります。そのため、レファレンス側にT細胞関連遺伝子の発現が少ない場合、サンプル側の発現が相対的に高くなることがあります。
マイクロアレイはサンプル間の発現差を比べることは得意ですが、レファレンスの構成によって見かけ上の発現比は変動するため、同じサンプル内で異なる遺伝子同士の発現量を単純に比較することは得意ではないという側面があるのです。
こうした特性を踏まえると、CD3群の発現パターンから受ける印象と、CD8Bの発現パターンから受ける印象が一致しない場合も起こり得ると考えられます。
■ T細胞量をどう読み解くか
T細胞の浸潤量を評価するには、CD8B単独ではなく、CD3群の結果と合わせて判断することが重要です。
第1のものさしでは、CD3群(CD3D・CD3E・CD3G)をセットで確認しているので、T細胞浸潤は必ずしも多くない、という見方の方が妥当と考えられます。
■ CD4とCD8の発現から見えてきたこと
今回のように、CD4やCD8AにT細胞以外のシグナルが多く含まれていそうな状況では、CD4とCD8の発現からT細胞の内訳を評価するのは難しいといえます。一方で、CD4やCD8Aの発現が高いサンプルが多いことから、ミエロイド系細胞やNK細胞など、T細胞以外の免疫細胞が関与している可能性が見えてきました。
今回は、CD4とCD8の発現をもとに、腫瘍内に集まるT細胞の系統について考えてみました。
次回は後編として、IL7RとCCR7の発現から、T細胞がどのような “状態”にあるのかを読み解いていきます。