第1のものさしでは、腫瘍内にどれだけ免疫細胞がいるのか、特にT細胞の「量」に注目しました。第2のものさしでは、集まったT細胞がどのような種類で、どのような状態にあるのかを見てきました。今回は、「11のものさし」の中の第4のものさしである、攻撃の「勢い」 について見ていきます。
腫瘍内には、CD8 T細胞やNK細胞など、腫瘍への攻撃に関わる免疫細胞が存在します。しかし、そこにいることと、実際に攻撃が起きていることは同じではありません。では、腫瘍内で実際に攻撃に関わる免疫応答が起きているかを、どのように読み解けばよいのでしょうか。
ここでは、攻撃に関わる「5つの武器」の関連遺伝子の発現から、腫瘍内で細胞障害性の免疫応答がどの程度起きている可能性があるのかを読み解きます。
■攻撃に関わる「5つの武器」
● GZMB: 標的を倒す「主力の武器」
GZMBは、標的細胞内でアポトーシス(細胞死)を誘導する酵素です。CD8 T細胞やNK細胞による細胞障害性の免疫応答を代表する分子の一つです。この遺伝子の発現が高い場合、CD8 T細胞やNK細胞による細胞障害性の免疫応答が起きている可能性が考えられます。
● PRF1: 細胞に穴をあける「破城槌(はじょうつい)」
PRF1は、標的細胞の膜に孔を形成し、GZMBなどの殺傷分子が標的細胞に作用するのを助ける分子です。PRF1とGZMBの両方の発現が高い場合には、GZMB単独の高発現に比べて、標的細胞への作用に必要な分子がそろっている可能性があり、細胞障害性の免疫応答が起きている可能性を考える上で、より強い手がかりになると考えられます。
● NKG7: 攻撃を支える「発射システム」
NKG7は、細胞障害性顆粒の放出など、攻撃に関わる機能と関連した分子です。この発現が高いことは、主にCD8 T細胞やNK細胞など、細胞障害性の免疫応答に関わる免疫細胞が含まれている可能性を示唆します。
● GNLY: もう一つの攻撃手段
GNLYは、細胞障害性顆粒に含まれる分子です。標的細胞の膜に作用し、細胞障害に関与します。特にNK細胞で強く発現し、GZMBなどとともに攻撃を担います。
● IFNG: 戦場全体の「号令」
IFNGは、活性化したT細胞やNK細胞などが産生するサイトカインです。周囲の免疫応答を調節するとともに、腫瘍細胞のHLAの発現を高めるなど、免疫細胞が標的を認識しやすい環境づくりにも関わります。免疫応答を周囲に広げ、攻撃を後押しする役割を担っています。
これら5つの攻撃関連遺伝子が高い発現パターンを示す場合、腫瘍内に細胞障害性の免疫応答や、それに関わる免疫細胞の活性化が起きている可能性が示唆されます。
逆に発現が低ければ、たとえCD8 T細胞やNK細胞が腫瘍内にいても、細胞障害性の免疫応答が強くない可能性があります。
つまり、この5つの遺伝子を組み合わせることで、「現場にだれがいるのか」だけでなく、「現場で細胞障害性の免疫応答がどの程度起きている可能性があるのか」を考える手がかりになるのです。
それでは、実際のデータで5つの攻撃関連遺伝子の発現を見ていきます。
『F-ExpTissues』の図については、これまで同様、各遺伝子の発現をヒートマップとグラフで示します。サンプルカテゴリと原発組織の色分けは、以下の通りです。


●GZMB・PRF1・NKG7・GNLYの発現パターン
GZMB・PRF1・NKG7・GNLYの4つは、主に造血系腫瘍や血液サンプルで発現が高く、それ以外では全体として低いという発現傾向を示しました。
造血系腫瘍での高発現は、細胞障害性の免疫応答に関わる細胞の存在や、その活性化を反映している可能性があります。
一方で、血液でこれらの発現が高いのは、血液中にCD8 T細胞やNK細胞など、これらの分子をもともと発現する免疫細胞が多く含まれているためと考えられます。したがって、これらの発現が高くても、血液中で実際に腫瘍への攻撃が起きていることを意味するわけではありません。
第1のものさしでは、CD3群の発現から悪性腫瘍に浸潤するT細胞は全体として多くない可能性が示唆されています。このことも、悪性腫瘍サンプルで攻撃関連遺伝子が広く高発現しない理由の一つと考えられます。
●正常肺におけるGNLYとPRF1の発現
GNLYについては、正常肺で比較的高い発現が見られました。また、PRF1についても正常肺で軽度の発現上昇が見られました。肺にはさまざまな免疫細胞が存在するため、 GNLYとPRF1の発現は、正常肺で細胞障害性の免疫応答が積極的に起きていることを直接示すものではないと考えられます。
一方、正常肺ではGZMBやNKG7の発現が低かったことから、すべての攻撃関連遺伝子が一様に高発現しているわけではありませんでした。つまり、GNLYとPRF1の発現は、正常肺で細胞障害性の免疫応答が積極的に起きていることを直接示すものではないと考えられます。
●IFNGの発現
IFNGは造血系腫瘍の一部で発現が高いサンプルがありますが、他の4遺伝子のような特徴的な発現パターンは示さず、正常組織や腫瘍組織で弱い発現が見られました。IFNG単独の発現だけでは、細胞障害性の免疫応答の強さを判断することは難しく、IFNGは他の4遺伝子ほど明確な特徴を示さない遺伝子としてとらえられます。
●攻撃関連遺伝子の発現データから見えてきたこと
今回は、5つの攻撃関連遺伝子の発現を通して、腫瘍内での攻撃に関わる免疫応答がどのような状態にあるのかを見てきました。その結果、細胞障害性の免疫応答が示唆される発現パターンを示すサンプルは、全体として一部に限られるといえそうです。